春の句
あらたまの空ひろびろとブーメラン
まさをなる空粛々と雁帰る
石膏のダビデの像や日脚伸ぶ
国道の一直線に春隣
家電器のお知らせブザー春時雨
薄氷やさらりと嘘をかさねをり
うすらひを沈めて漬け菜引き上ぐる
卒業期少し離れて教師立つ
雛の日の舌に溶けゆく干菓子かな
春障子胸の高さに光りけり
木しゃもじで切るごとほぐす春の鮨
ゆるやかに袱紗を畳む春座敷
春雷や一刀彫りの不動尊
初めてのピアスを揺らす春の旅
蕗味噌や隣近所に会釈して
癒えし母の荷物解くや花の韮
山菜を食べる楽しみ山笑ふ
酒蔵の清き神棚水温む
担任の口癖まねる花の下
全身をたわしでこする啄木忌
風光る新入部員の宙返り
イヤリング買ってほしいな花祭り
風見鶏ゆるりと回る復活祭
春嵐みな無口なる会議室
春うららシナモンロール焼き上がる
鳥曇微熱の続く夫とゐて
春燈下チャリチャリ鳴らす鍵の束
亀鳴くや声慎みて二重橋
スカーフをふはりとしまふ四月かな
オカリナを吹く少年よ花椿
桜ふるあけぼの詩歌文学館
春はそこ焼き立てパンの香り来る
一椀の味噌汁うまし春の宵
ころころところがる薬啄木忌
霊長類ヒト科のこころ豆の花
鳥曇町へ行く道坂ばかり
女生徒のくるぶし固き西行忌
ほってりとおのが重さや玉椿
詰襟の裏地の龍や卒業歌
スカートの裾もさまざま巣立ち行く
少年の声うら返る入学式 ☆
制服に固き線あり新入生
つぶやきもしはぶきも増え花曇り
教へ子の句集を買ひて春満月
風光る新入部員の宙返り
耳たぶの大きな男光る風
おぼろ月何か約束したやうな
少年のくちびる紅き草の笛
てのひらにすくふ金魚のおちょぼ口
庭下駄をゆるく鳴らせる沈丁花
電線に並ぶ雀や春の虹
言の葉に嘘の匂ひや春の雷
農具庫の土の匂ひや春一番
早春の土のぬくみや樹霊塔
春の雪むかしむかしの子守歌
生けるものみなぎる気配春障子
うすやみの梅の白さや掌に親し
いっぽんの干し鱈縄に吊られをり
流氷をつなぐ半島帯のごと
癒ゆる日や空の青さとチューリップ
初蝶の生徒の列へ消えゆけり
しゃぼん玉やすらぎといふものほしき
きさらぎや木の虚(うろ)にある土ぼこり
春の雪しづかに水へかへりたし
笹鳴やうしろ手にして身を反らす
ペンを持つ指の先まで受験生
はなびらのかたちにたたむ春の菓子
追悼句
痩身の夫運びきて春寒し
花曇ストレッチャーの滑車音
病窓の早き目覚めに桜舞ふ
病む人の胸の薄さやしゃぼんだま
葉桜や動けぬ夫の髭を剃る
夫の手すべり落ちたる五月三日
たたみたる肌着の匂ひつつじ燃ゆ
叫べどもあがなへぬ時あり残花