「純喫茶 湖」
湖畔のほとりの純喫茶で
熱いコーヒーとトーストを
注文しながら つぶやく
この湖の色も匂いも
昔と変わったなぁ・・・
初老の凛としたママがパンを厚く切りながら
私は生まれてからずっとここで
暮らしていますが
湖の色は昔のまんまだし
匂いだって変わりませんよ
そう思うのは
あなたが変わったからではないのですか？
変わったのは 私の方か
変わらない心なんて あるのだろうか
湖は連綿と時間を紡いで
未来につづいていく
木漏れ日が十字の光をつくり
雪蛍がふわふわと飛ぶころ
生命循環システムのひと粒である
私の魂も
一種の共鳴体として
変わらないわけにはいかないのだ
シナモンとバターの香り
挽きたてコーヒーの香りの中で
窓の外を見ると
青い光の湖から
煙みたいのが立ちのぼっている
ママの言葉は遠くからの声のように
しだいに影を深くする
桟橋にたたずまう緑の子どもは
だれ？
