読売新聞から
極寒のシベリアに、11年間も抑留生活をした井上さん。
陸軍中野学校の特殊任務は、自分から望んだわけではなかったそうです。
しかし、収容所で黒パンと塩汁(!)だけでの強制労働の日々。
そこで出会った捨て犬の「クロ」に、みんなでエサを分け与えて飼うことに。
クロは、疲れ切った日本人兵を癒してくれました。
クロは、心の支えでした。
1956年 12月24日朝。やっと帰還できる日本人兵を追いかけて
クロは、氷の海に飛び込みました。
「戻れクロ、死んでしまうぞ!」
「岸に帰るんだ!」
帰還者たちが甲板で叫びます。
船長が見かねて船を止めました。
クロを海から抱き上げます。
クロは、しっぽをうれしそうに振り、みんな涙が止まらなかったそうです。
そのままクロも「帰還」し、舞鶴港近くの住民に引き取られたと。
やがて、クロの子どもが生まれ、船長さんの家に贈られたそうです。
真っ黒の大人しい犬でした。
「自分を救ってくれた日本人のことを、クロは命がけで追ってきた。
互いに苦しかったからこそ、心が結びついた。
つらく長かった日々の中で、そこだけが今も輝いているようです」
(9月25日朝刊より)